情シスの「変わる」が問いかける本質
2026-05-26
「変わる情シス2026春」というイベントに、複数の企業が協賛を表明しました。イベント名が示しているのは、情報システム部門(情シス)の役割を、これまでの「システムを止めない管理者」から、事業成長を牽引する「戦略的パートナー」へと変えなければならない、というメッセージです。
ここで問いたいのは、「なぜ今、情シスが変わらなければならないのか」という根本の理由です。「DX推進のため」という漠然とした目標ではありません。経営環境が変わり、テクノロジーが民主化し、何より経営陣がITを「コストセンター」から「プロフィットセンター」へと見直さざるを得なくなったからです。
本記事では、この「変わる情シス」というトレンドを、スキルアップや組織再編の話にとどめず、経営とITの関係そのものを定義し直す機会として読み解きます。
変わらなければ、情シスそのものが不要になる
これまで情シスは、システムの安定稼働を何より優先して評価されてきました。障害を起こさない。セキュリティインシデントを防ぐ。コストを削減する。どれも確かに重要なミッションです。しかしSaaSの普及によって、現場の部門が自分でクラウドサービスを契約できるようになりました。いわゆる「シャドーIT」の台頭です。
この現象は、情シスの存在意義を根本から揺るがしています。経営陣から見れば、「現場が自分でツールを選んで使えているのに、なぜ情シスが要るのか」と疑問が湧くのは当然です。実際、多くの中小企業では情シス部門が形骸化し、総務や経理の兼任担当者がなんとなく管理しているケースが後を絶ちません。
だからこそ「変わる情シス」が求められます。変わらなければ、組織そのものが不要になりかねないからです。とはいえ、「新しい技術を覚えろ」「プログラミングを学べ」という話ではありません。変わるべきは、情シスが担う「役割」と「責任」の範囲です。
本質は「守り」から「攻め」へのシフトではない
よく言われる「守りのITから攻めのITへ」というフレーズには、少し注意が要ります。この言葉だけが独り歩きすると、情シスが無理に新規事業を企画したり、営業支援ツールの導入リーダーを務めたりすることを求められかねません。しかし、それは本来、事業部門の役割です。
情シスが本当に身につけるべきは、経営陣と事業部門に対して、IT投資の「目的」をはっきりさせるためのファシリテーション能力です。ITの専門家として、「このツールを入れると、どの業務がどう変わるのか」「その変化は経営目標の達成にどう効くのか」を、経営の言葉に翻訳して説明する力です。
たとえばSalesforceを導入するなら、情シスはシステムを構築するだけでなく、「営業の可視化が進むことで、経営会議の意思決定の速度が月単位から週単位に縮まる」という価値を経営陣に示す必要があります。
「変わる情シス」に必要な3つの視点
では、情シスは具体的に何を変えればよいのでしょうか。私は、次の3つの視点が重要だと考えています。
経営視点を持つ
一つめは経営視点です。情シス担当者は、自部門の予算やリソースだけでなく、会社全体の事業戦略を理解する必要があります。中期経営計画、重点投資領域、競合環境。これらを踏まえたうえで、IT投資の優先順位を提案できるようになることが求められます。
そのためには、経営会議の資料を定期的に閲覧できる権限を得たり、経営企画部門との定例ミーティングを設けたりするのが有効です。技術の議論に入る前に、「この投資は売上増加とコスト削減のどちらに効くのか」を常に問う習慣をつけましょう。
「統合」を設計する
二つめは、統合を設計する能力です。SaaSが増えるほど、データはサイロ化します。営業はHubSpot、マーケティングはGoogle Analytics、カスタマーサポートはZendesk。それぞれのツールは優秀でも、データがつながっていなければ、経営は全体像をつかめません。
情シスに求められるのは、これらのツールをAPIで連携させ、一元的なダッシュボードを組み上げる力です。ノーコードツール(Zapier、Make)やBIツール(Tableau、Power BI)を使いこなすスキルは、もはや選択肢ではなく必須になりつつあります。
たとえば受注データとカスタマーサポートのチケットデータをつなげれば、「どの製品に問い合わせが多く、その製品のリピート率が低いか」という傾向が見えてきます。製品開発やマーケティング戦略に直結する、重要なインサイトです。
「任せる」文化を育てる
三つめが、最も難しい「任せる文化」の醸成です。情シスがすべてのITを管理しようとすれば、そこがボトルネックになり、現場のスピードを損ないます。大切なのは、現場が自らツールを選び、運用するための「ガイドライン」と「サポート体制」を整えることです。
たとえば「このカテゴリのツールは情シスの承認なしに契約してよいが、セキュリティチェックシートの提出は必須」といったルールを設けます。情シスはすべてのツールを抱え込むのではなく、現場の自律的なIT活用を後押しする「プラットフォーマー」へと役割を移すのです。
明日から始められる3つのアクション
ここまでの議論を踏まえ、明日からでも始められる具体的なアクションを3つ提案します。
1つ目は、情シス部門の中で「事業理解」の勉強会を始めることです。自社の主力製品・サービスの強み、競合との差別化ポイント、顧客セグメントについて、営業やマーケティングのメンバーを招いてレクチャーしてもらいましょう。
2つ目は、いま使っているSaaSの棚卸しです。どのツールが誰に使われ、どれだけの効果を上げているのかを可視化します。使われていないツールは解約し、機能が重複するツールは統合を検討します。
3つ目は、経営陣との定例ミーティングを月1回設けることです。IT投資の進捗を報告するだけでなく、「このデータ分析からこんな示唆が得られた」「このツールを入れれば、この業務がこれだけ効率化できる」といった、先を見据えた提案をする習慣をつけましょう。
まとめ:変化の本質は「関係性の再定義」
「変わる情シス2026春」に協賛する企業が増えている背景には、情シスがもはや従来の延長線上では生き残れないという危機感があるのでしょう。しかし、変化の本質はスキルアップや業務範囲の拡大ではありません。
経営陣、事業部門、そして情シス自身が、ITに対する「目的」と「責任」を定義し直し、新しい関係を築くことです。情シスは「システム管理者」から「ビジネス変革のパートナー」へ。経営陣は「ITは任せるもの」から「ITは自ら定義すべき経営資源」へ。この認識の転換こそが、真のDXの出発点なのです。
あなたの会社の情シスは、今日から何を変えますか。