ファイル迷子が示す情シス不在の真実

中小企業のデジタル化が進んでいます。しかし、その裏で新しい問題が浮かび上がっています。ITmediaの調査によると、中小企業の約65%が「情報システム部門(情シス)不在」の状態にあります。一方、キーマンズネットの調査では、電子化が進む企業の84%が「ファイル迷子」を経験していることがわかりました。

「ファイル迷子」とは、必要なファイルがどこにあるのかわからなくなる状態のことです。デジタル化で紙の書類は減ったものの、データの保存場所がばらばらになり、かえって業務効率が落ちているのです。

この二つのニュースは、一見すると無関係です。しかし経営×ITの視点で見ると、深くつながっています。情シス不在がファイル迷子を招き、それがデジタル化の効果を半減させているのです。

情シス不在が招く「目的なきデジタル化」

情シスのない企業では、誰がITを管理しているのでしょうか。多くの場合、現場の担当者が「ついでに」引き受けています。経理担当者がクラウド会計ソフトを導入し、営業担当者がCRMツールを選び、総務担当者がファイル管理サービスを契約する。それぞれが自分の業務に便利なツールを選ぶので、全体の整合性はとれません。

私はこの状態を「目的なきデジタル化」と呼んでいます。各部門がばらばらにITツールを導入するため、データの保存場所もフォーマットも統一されない。その結果として、ファイル迷子が起きます。

経営者は「デジタル化を進めている」つもりでも、実際には業務の断片化が進んでいるだけかもしれません。経営がITの目的を定義しない限り、この状態は良くなりません。

ファイル迷子の原因はツールではなく「ルールの不在」

ファイル迷子の根本原因は、ツールではありません。ファイル管理の「ルール」が存在しないことです。具体的には、次の3つが欠けています。

保存ルールがない

「どのファイルを、どこに、どんな名前で保存するか」というルールがなければ、すべて個人の裁量になります。Aさんはクラウドストレージ、Bさんはローカルフォルダ、Cさんはメールの添付ファイル。これでは、必要なファイルを探すだけで時間がかかります。

命名規則がない

ファイル名に日付やバージョン番号を入れるルールがないと、「最終版」「本当の最終版」「修正版」といったファイルが乱立します。どれが正しいのか判断できず、誤ったデータで業務を進めてしまうリスクが生まれます。

アクセス権限が整っていない

誰がどのファイルにアクセスできるのかがはっきりしていないと、セキュリティ上の問題が起きます。退職者がアクセスできる状態のまま放置されていたり、外に漏れてはいけない情報が共有フォルダに置かれていたりするケースです。

情シスがあれば、こうした問題は解決できます。しかし情シス不在の企業では、問題があることにすら気づかれないまま、現場の負担だけが増えていきます。

電子化=効率化ではない

多くの経営者は「電子化すれば業務は効率化する」と考えがちですが、それは大きな誤解です。電子化は手段であって、目的ではありません。目的は「業務の効率化」や「意思決定の迅速化」であるべきです。

たとえば、紙の書類をPDFにしただけでは検索性は上がりません。OCR(光学文字認識)でテキスト化し、適切なフォルダに分類し、タグを付けて初めて「探せるデータ」になります。この一連の作業を設計するのが、情シスの役割です。

神戸デジタル・ラボが倉庫現場のDX支援を始めたというニュースも、同じ文脈で読めます。倉庫現場の目的は、在庫管理やピッキング作業の効率化です。ハンディターミナルを入れるだけでは効果は限られ、業務フロー全体を設計し直す必要があります。

デジタル化の効果を最大にするには、経営が「何のためにITを使うのか」を明確に定義し、その目的に沿ってシステムを設計することが欠かせません。

経営者が今すぐできる3つの対策

情シスをすぐには作れない中小企業でも、今すぐできる対策があります。次の3つを実践してみてください。

ファイル管理のルールを決める

まずは全社共通のファイル管理ルールを決めましょう。保存場所の統一、命名規則の策定、アクセス権限の設定。これらは経営者がトップダウンで決めるべき事項です。現場に任せると、またばらばらになります。

クラウドストレージを統一する

Google Drive、Dropbox、OneDriveなど複数のクラウドストレージを使い分けているなら、1つにまとめましょう。ツールを統一するだけでも、ファイル迷子の発生率は大きく下がります。複数のツールを契約するより、コスト面でも安く済むことが多いはずです。

定期的に棚卸しをする

年に1回、全社でファイルの棚卸しをしましょう。不要なファイルを削除し、保存場所を見直します。これを定期的に続けることで、ファイル迷子を未然に防げます。棚卸しのタイミングで、ルール自体も見直すとよいでしょう。

経営がITを定義しなければ、混乱は続く

中小企業の65%が情シス不在という現実は、経営がITから逃げてきた結果です。「ITは専門家に任せるもの」という考え方が、デジタル化の混乱を生んでいます。

経営者は、ITを「経営資源」として捉え直す必要があります。ITの目的は、業務効率化や売上向上といった経営目標の達成です。そのためには、経営自らがITの方向性を定め、それを実行する仕組みを作らなければなりません。

ファイル迷子は小さな問題に見えるかもしれません。しかしその根底には、経営ITの不在という大きな構造問題が潜んでいます。まずは自社のファイル管理から見直してみてはいかがでしょうか。それが、真のデジタル化への第一歩です。