産地偽装とBP解任に学ぶガバナンスの死角
2026-05-29
最近、気になるニュースが二つ報じられました。一つは、大手菓子メーカーによる原材料の産地偽装問題で、農水省が是正指示を出した事例です。もう一つは、エネルギー大手BPの会長解任劇。就任から約7カ月という異例の短さでの解任に、ガバナンスの専門家として注目しました。
まったく別の出来事に見えますが、中小企業の経営者として見逃せない共通点があります。「ガバナンスの番人」そのものがリスクになりうる、という点です。
BPの事例では、会長というガバナンスの最高責任者自身の行動が、取締役会から問題視されました。菓子メーカーの事例では、原材料の調達から表示までのプロセスを管理する責任者が、不正を見逃していた可能性があります。二つのニュースは、中小企業のガバナンスに潜む「見えない死角」を浮かび上がらせています。
「番人」が死角になる構造
多くの中小企業では、社長や専務など限られた経営陣が、ガバナンスのすべてを担っています。この構造には大きなリスクがあります。
BPの会長解任劇を詳しく見てみましょう。BPの会長は、本来なら経営陣を監督する立場です。ところが、内部通報をきっかけに、会長自身のガバナンス上の振る舞いや言動に深刻な懸念があるとして、取締役会が即時解任を決めました(本人は指摘された内容を否定しています)。ガバナンスを監視する立場の人間そのものが、リスクとして問われたのです。
中小企業では、この構造がもっとはっきり表れます。社長が経営とガバナンスの両方を担っているなら、誰が社長を監視するのでしょうか。社長が不正に手を染めたとき、それを止める仕組みがありません。
菓子メーカーの産地偽装も同じです。原材料の調達責任者がコスト削減のために産地を偽る判断をしても、それをチェックする仕組みがなければ、不正は長く続きます。
問題の核心は、「番人」そのものをチェックする仕組みが欠けていることです。大企業なら社外取締役や監査役がその役割を担いますが、中小企業にはそうしたリソースがありません。
中小企業が今日からできる三つの対策
では、中小企業の経営者はどうすればよいのでしょうか。予算も人員も限られるなかで、すぐに実践できる対策を三つ紹介します。
対策1:情報の非対称性を減らす
ガバナンスの死角は、情報が一部の人間に集まることで生まれます。社長だけがすべての情報を握っている状態は危険です。
具体的には、次のような工夫が効果的です。
- 経理データを複数人で確認できる体制をつくる
- 重要な取引先との契約書は、社長以外の管理職も閲覧できるようにする
- 定期的に外部の専門家(税理士や弁護士)に業務プロセスをレビューしてもらう
どれも、特別なシステムを入れなくても、いまあるツールで実現できます。
対策2:「ワンマン決定」を避けるルールをつくる
中小企業では、社長がすべてを決める「ワンマン経営」が珍しくありません。しかし、これこそがガバナンスの最大の死角になります。
特に次のような判断には、必ず複数人が関わることを義務づけるルールをつくりましょう。
- 取引先の選定や変更
- 原材料や製品の品質基準の変更
- 販売価格の大幅な変更
- 新規事業への参入決定
こうした判断を社長が下すときは、必ず経理責任者や現場責任者を交えた会議を開き、議事録を残す習慣をつけましょう。
対策3:「想定外」を想定した訓練を行う
BPの会長解任劇で驚かされたのは、就任から約7カ月という短い期間で、トップの交代にまで至ったことです。どれほど強固に見えるガバナンス体制でも、想定外の事態は起こりうるということです。
中小企業では、年に一度ほど、次のような架空の事例を使って訓練することをお勧めします。
- もし社長が突然入院したら、誰が経営を引き継ぐのか
- もし主要な取引先が倒産したら、どう対応するのか
- もし社内で不正が見つかったら、誰が調査し、どう報告するのか
こうした訓練を重ねることで、ガバナンスの死角を前もって見つけられます。
「設計」としてのガバナンスへ
ここまで読んで、「うちの会社にそこまでの仕組みはいらない」と感じた方もいるかもしれません。
しかし、産地偽装やBPの事例は、どんな規模の企業にも起こりうることを示しています。むしろ中小企業こそガバナンスの死角が大きく、ひとたび不正が起きれば会社の存続にかかわる事態になりかねません。
ガバナンスは「違反しないためのルール」ではなく、「事業を守り、成長させるための設計」です。
BPの事例は、監督する側のトップ自身がリスクになりうることを教えています。菓子メーカーの事例は、現場レベルの不正が長引くリスクを示しています。こうしたリスクから会社を守るには、日ごろから「誰かが見ている」状態をつくっておくことが大切です。そのための仕組みを、今日から少しずつ築いていきましょう。
手始めに、来週の経営会議で次の議題を取り上げてみてください。
- 現在の意思決定プロセスに、複数人によるチェックは入っているか
- 社長が全てを決めている領域はないか
- もし社長が不正をした場合、それを止める仕組みはあるか
これらの問いに向き合うこと自体が、ガバナンスの第一歩です。