「考えてない」が通じない時代のガバナンス設計

落語家・三遊亭小遊三さんが「大コンプライアンス時代も三遊亭小遊三は泰然自若でスケベ道『考えてないけど大丈夫です』」と語ったニュースが話題です(オリコンニュース)。

小遊三さんの芸風としての「考えてない」は、ある種のプロフェッショナリズムの表れかもしれません。けれども、中小企業経営の現場で「考えてないけど大丈夫です」が通じる時代は終わりました。

とりわけ、コンプライアンス違反が発覚したあとの「考えてなかった」は、経営者として致命的です。それは「設計していなかった」と言っているのと同じだからです。

この記事では、大コンプライアンス時代における中小企業のリスク設計の考え方を、「1〜99の思考法」で解説します。ガバナンスを単なる「守り」ではなく、事業を加速させる設計技術として捉え直しましょう。

「考えてない」がリスクになる3つの理由

理由1:問われるのは「意図」より「結果」

かつては「知らなかった」「考えてなかった」が情状酌量の余地になりました。しかしいま、行政や取引先が問うのは「なぜその仕組みがなかったのか」、つまり設計があったかどうかです。

下請法違反や個人情報の漏洩を考えてみてください。経営者が「考えてなかった」と答えた瞬間、信用は地に落ちます。「考えなかったこと」そのものが、経営能力の欠如と見なされるのです。

理由2:考えないままの判断が、組織全体をリスクにさらす

経営者の「考えてない」は、組織に広がります。判断の基準が曖昧なまま部下に指示を出せば、現場は「なんとなく」で動き、グレーゾーンを独断で判断するようになります。

その結果、意図しない法令違反や取引先とのトラブルが起きる。経営者は「知らなかった」では済まされず、組織としての責任を問われます。

理由3:「考えてない」は成長の機会を逃す

「考えてない」状態は、リスクに気づいていないだけでなく、事業を広げるチャンスも見逃します。海外展開や新規事業がその典型です。リスクを「0か100」で捉えると、「怖いからやらない」という選択肢しか残りません。

リスクを「1〜99の連続量」で捉えて適切に設計すれば、多くの事業は成り立ちます。「考えてない」は、挑戦を放棄するのと同じことなのです。

「考えない」を防ぐガバナンス設計

ステップ1:「判断の分岐点」を前もって決める

経営者が「考えてない」状態に陥るいちばんの原因は、判断すべきタイミングを逃すことです。そこで効くのが、「判断の分岐点」をあらかじめ決めておくことです。

たとえば、次のような基準を設けます。

  • 新規取引先との契約:取引額が100万円以上なら法務チェック必須
  • 個人情報の取り扱い:外部委託する場合は必ず秘密保持契約を締結
  • 従業員の懲戒:就業規則に定めのない行為は、社外の専門家に相談

これらを「ルール」として明文化しておけば、経営者が「考えてない」まま判断することはなくなります。分岐点に差しかかったら、自動的に「考える」プロセスが立ち上がる仕組みです。

ステップ2:「選択肢を3つ」出す習慣をつける

「考えてない」状態は、選択肢を1つしか思い描いていないことから生まれます。「この案件、受けるか断るか」の2択だけで考えていると、どちらもリスクが大きいときに思考が止まってしまいます。

そこで、いつも「選択肢を3つ」出す習慣をつけましょう。

  • A案:受ける(リスク許容範囲内か検証)
  • B案:条件付きで受ける(契約書にリスク回避条項を入れる)
  • C案:一旦保留し、追加情報を集める

選択肢を複数並べるだけで、「考えてない」状態は防げます。それぞれのメリットとデメリットを比べる過程そのものが、リスクを見える化してくれます。

ステップ3:「考え直せる余地」を残しておく

完璧なガバナンスを最初からつくろうとすると、設計が複雑になりすぎて、結局「考えてない」状態に逆戻りします。大切なのは、「考え直せる余地」を残しておくことです。

たとえば、次のような設計が有効です。

  • 契約書の自動更新条項は、年に1回は見直す機会を設ける
  • 内部規程は「3年ごとに改定」と明記し、定期的な見直しを義務付ける
  • 重要な意思決定は、必ず議事録に残し、後から検証可能にする

考え直せる余地があるから、経営者は「いまはこれで大丈夫」と安心して前に進めます。状況が変われば、直せばいい。この柔軟さが、中小企業のガバナンスには欠かせません。

「考えてない」から「設計してある」へ

大コンプライアンス時代において、経営者の「考えてない」はもはや免罪符になりません。むしろ、経営能力が足りない証拠と見なされます。

とはいえ、求められているのは、あらゆるリスクを事前に想定して完璧なルールをつくることではありません。判断の分岐点を前もって決め、選択肢を複数用意し、そのうえで「考え直せる余地」を残しておく。そうした「設計」をすることです。

小遊三さんの「考えてないけど大丈夫です」は、長年の経験と揺るぎない芸風に裏打ちされた言葉です。中小企業の経営には、その「裏打ち」がありません。だからこそ、ガバナンスという「設計」が必要なのです。

あなたの会社は、「考えてない」まま動いていませんか。今日から、判断の分岐点を決め、選択肢を3つ出す習慣を始めてみてください。それが、大コンプライアンス時代を生き抜くための最初の一歩です。