不正報酬が映すガバナンス空洞化の構図

2025年4月、サンリオが役員への不正報酬を公表し、社長が「ガバナンスに課題」と謝罪する事態が報じられました(北海道新聞デジタル、2025年4月)。同社は世界的なキャラクタービジネスを展開し、社外取締役や監査役も置いている上場企業です。

それほどの体制があってもなお、不正報酬は起きました。中小企業の経営者にとっても、他人事ではありません。「自社には関係ない」と考える前に、なぜこの問題が起きたのか、その構造を理解しておく必要があります。

不正は「仕組み」ではなく「判断」の問題

サンリオのケースで目を向けるべきは、不正の中身よりも、なぜそれを止められなかったのかという点です。社内に経理部門も監査役もありながら、不正報酬は支払われました。

ガバナンスの仕組みが形のうえで整っていても、実際の判断のプロセスに問題があれば機能しない。そのことを示しています。中小企業でも、「規定はあるけれど運用されていない」「チェックの仕組みはあるが形骸化している」という状況は珍しくありません。

中小企業における「報酬ガバナンス」の盲点

中小企業では、経営者自身が報酬を決めるケースがほとんどです。役員報酬の決め方がはっきりしないまま、税理士や顧問に任せきりになっていることも少なくありません。

報酬決定の3つの落とし穴

1つ目は、「経営者自身の報酬が適正かどうか」を確かめる人がいないことです。売上や利益と関係なく、固定で高額の報酬を設定しているケースがあります。

2つ目は、「家族や親族への報酬」です。中小企業にはオーナー経営者が多く、配偶者や子息に不当に高い報酬を払ってしまうリスクがあります。

3つ目は、「報酬と業績の連動性」です。業績が悪化しているのに報酬だけは減らない。そんな状況は、社内のやる気を削ぎ、不正の温床にもなります。

経営者自身が気づくための設計

サンリオのケースで大切なのは、社長自らが「ガバナンスに課題」と認めた点です。問題を認識できたからこそ、改善への第一歩を踏み出せます。

中小企業の経営者に求められるのは、自分の報酬を「誰かがチェックできる仕組み」を取り入れることです。具体的には、次のような手が考えられます。

今すぐできる具体的アクション

報酬の決め方を見える化する

まず、役員報酬の決定基準をはっきりさせましょう。売上高や営業利益、キャッシュフローなど、客観的な指標にもとづいて報酬額を決めるルールを文書にします。

毎年の報酬改定のたびに、その根拠を記録に残す習慣もつけましょう。この記録は、のちのトラブル防止や税務調査への対応にも役立ちます。

第三者が確かめる仕組みをつくる

中小企業では社外取締役を置くのが難しいことも多いですが、顧問税理士や顧問弁護士に報酬の妥当性を確かめてもらうことはできます。年に1度、報酬が適正かどうかをチェックする機会を設けましょう。

家族経営なら、配偶者や子息以外の第三者、たとえば銀行の支店長や取引先の経営者に意見を聞くのも有効です。

報酬とリスクのバランスを設計する

報酬は「利益が出たときの分配」だけでなく、「損失が出たときの責任」とセットで考える必要があります。中小企業の経営者は、自分の報酬が会社の資金繰りにどう響くかを、いつも意識しておくべきです。

たとえば月額報酬を固定部分と変動部分に分け、変動部分を業績に連動させる方法があります。こうすれば、業績が悪化したときには自動的に報酬が下がる仕組みがつくれます。

ガバナンスは「誰かがやってくれるもの」ではない

サンリオの不正報酬問題は、大企業でもガバナンスに「ずれ」が生じうることを示しています。中小企業ならなおさら、経営者自身が主体となって設計しなければ、形だけの仕組みで終わってしまいます。

大切なのは、「不正を起こさない」という守りの姿勢ではなく、「事業を継続的に成長させる」ための設計技術としてガバナンスを捉えることです。報酬ガバナンスは、その入り口として最も身近なテーマの一つです。

経営者が今日から始める3つのステップ

  • ステップ1:自社の報酬決定プロセスを紙に書き出してみる
  • ステップ2:そのプロセスに「第三者の目」が入るポイントを1つ追加する
  • ステップ3:報酬と業績の連動ルールを決め、社内で共有する

どのステップも、大きなコストや時間はかかりません。それでも、この小さな一歩が、将来の大きなリスクを防ぐことにつながります。

サンリオの社長が「ガバナンスに課題」と認めたように、まずは自社の現状を直視することから始めましょう。不正は、気づいたときにはもう起きているものです。だからこそ、起きる前に「気づける設計」を整えておく。それが、経営者に求められる責任なのです。

(参考文献:北海道新聞デジタル「サンリオ、不正報酬で謝罪 社長「ガバナンスに課題」」2025年4月)