「ガバナンス改善計画書」の本質は、計画ではなく「実行の設計」にある

バレーボールSVリーグの岡山シーガルズが、来季のクラブライセンス審査でコーポレートガバナンス上の問題を指摘され、「ガバナンス改善計画書」の提出を求められた、というニュースが報じられました。リーグが「ガバナンスの改善」を具体的なライセンス条件として課した点は、とても示唆に富んでいます。

ただし、ここには多くの組織が陥る罠があります。「計画書の提出」そのものが目的になり、分厚い文書をつくったことで「改善した気分」になってしまうことです。外からの要請でつくる計画書ほど、このリスクは高くなります。中小企業の経営者の皆さん、自社の「内部統制基本方針」や「コンプライアンス規程」は、つくったあと本当に「使われて」いますか。

ガバナンスとは、事業目的を実現するための「上位の経営設計」です。計画書は、その設計図の一部にすぎません。どれほど美しい設計図でも、現場で使われなければ意味がありません。この記事では、このニュースを入り口に、「ガバナンス改善計画書」を提出書類から実効性のある「実行の設計書」へと変える具体的な方法を、50社以上のDX推進・ガバナンス改革を支援してきた経験からお伝えします。

「計画書の提出」が目的になる瞬間

シーガルズのケースは、外部の機関(SVリーグ)がガバナンスの改善を求めた典型例です。同じ構図は、金融機関の融資条件、取引先からの監査要請、上場準備での証券取引所の指摘など、中小企業でもよく起こります。

そんなとき、組織は「求められたものを出す」という目先のゴールに集中しがちです。法務部門や経理部門が中心になり、既存のテンプレートを参考に、網羅的で「無難な」計画書をつくる。その結果、次のような計画書ができあがります。

  • 「年1回、コンプライアンス研修を実施する」
  • 「内部通報規程を整備する」
  • 「取締役会を毎月開催する」

どれも間違いではありません。しかし書かれているのは「何をすべきか(What)」だけで、「どう実行し、その結果をどう事業に活かすのか(How & Why)」が抜け落ちています。これでは計画書は「チェックボックスを埋めるための書類」で終わり、ガバナンスの本質である「事業をより良く回す設計」にはつながりません。

「実行の設計書」に変える3つのステップ

では、提出を求められた、あるいは自ら進んでつくる「ガバナンス改善計画書」を、実効性のある「実行の設計書」に高めるにはどうすればよいのでしょうか。次の3ステップで考えてみてください。

ステップ1: 「What」から「How & Why」へ書き換える

まず、計画書の書き方を変えます。抽象的な行動目標を、具体的な実行のプロセスとその目的に分解するのです。

たとえば「年1回、コンプライアンス研修を実施する」と書くだけでなく、「誰が」「どの事業上のリスクを減らすために」「何をもって効果があったと判断するのか」まで書き込みます。研修の目的が「受講率」ではなく「特定の判断ミスを減らすこと」だとわかれば、研修の中身も、その後の確認方法も自然に変わります。

「取締役会を毎月開催する」も同じです。開催することではなく、「その場で何を決め、何を監督するのか」を書くことで、初めて会議が経営の道具になります。

ステップ2:実行の「責任者」と「確認の場」を決める

次に、計画の一つひとつに実行の責任者を置き、進み具合を確かめる場をあらかじめ決めます。計画書がつくられた直後は誰もが意識していても、日々の業務に追われるうちに、実行は後回しになりがちです。

「誰が」「いつまでに」「どの会議で報告するのか」を決めておけば、計画は定期的に経営の目に触れ続けます。確認の場は、新しい会議を増やす必要はありません。既存の経営会議の議題に、短い時間でも組み込むことが大切です。

ステップ3:結果を振り返り、計画そのものを更新する

最後に、実行した結果を振り返り、計画書を書き換える仕組みをつくります。計画どおりに進まなかった項目は、失敗ではなく、自社の実態と計画のずれを教えてくれる情報です。

なぜ進まなかったのか、目的に照らして手段が合っていたのかを見直し、必要なら計画の中身を変える。この見直しを繰り返すことで、計画書は「一度出して終わりの書類」から、事業とともに育つ「実行の設計書」になっていきます。

計画書は「出したとき」ではなく「使われたとき」に価値を持つ

外部から求められた計画書であっても、それを自社の経営を見直す機会として使えるかどうかは、経営者の姿勢しだいです。提出がゴールになった計画書は、やがて誰にも読まれなくなります。

「What」から「How & Why」へ書き換え、実行の責任者と確認の場を決め、結果を振り返って更新する。この3つのステップを通じて、ガバナンス改善計画書を、事業目的を実現するための「上位の経営設計」として機能させてください。