ひとり情シスが止める会社のリスク
2026-06-19
ITmediaの報道によれば、半数を超えるひとり情シスが「自分が休むとシステムが止まる」と認識しています。
これは現場の愚痴ではありません。事業継続そのものを、一人の担当者の体力と休暇の取り方に委ねている。経営の構造的な欠陥が、そのまま表に出ているのです。
とくに中小企業では、情シス部門自体がなく、総務や経理が兼任していることも少なくありません。「ひとり情シス」問題は、IT投資の不足と経営のIT軽視が生んだ典型的な病理です。
なぜ「ひとり情シス」は放置されるのか
経営者が「ITは誰かに任せておけば動く」と考えているかぎり、この問題は解決しません。多くの中小企業には、ITの運用コストを「削るべき経費」とみなす文化がいまも根強く残っています。
しかし、システムが止まったときの機会損失は計り知れません。受注管理システムがダウンすれば、その日の売上がゼロになるかもしれません。経理システムが止まれば月末の締め処理が遅れ、取引先への支払いにも響きます。
ITを「個人の責任」にした経営の代償
ひとり情シスが抱える最大の問題は、業務の属人化です。システムの設定も障害対応のノウハウもその人だけが持ち、ほかの社員はまったく関われない。これは、経営がITを「専門家に任せる技術領域」と位置づけた結果にほかなりません。
編集方針でも指摘したとおり、ITの目的を経営が定義しなかったこと自体が、ひとつの経営判断です。その結果、ITは属人的な対応ぶりで評価される構造ができあがりました。
事業継続計画(BCP)の盲点
多くの中小企業は、災害やシステム障害に備えたBCPを策定しています。ところが、そこに「情シス担当者が休んだ場合」のシナリオが入っていることは、きわめてまれです。
事業継続を脅かすのは、自然災害やパンデミックだけではありません。担当者の突然の退職や病気も、同じくリスクです。ここを無視したBCPは、絵に描いた餅にすぎません。
属人化を解消する3つの具体策
ひとり情シス問題を解決するには、経営者自身がITを「経営資源」としてとらえ直す必要があります。そのうえで、すぐに実践できる対策を3つ紹介します。
1. パスワードとドキュメントを共有する
まず、システムのパスワードや設定情報を情シス担当者しか知らない状態から抜け出します。無料または低価格で使えるパスワード管理ツール(Bitwardenや1Password)を導入し、経営者やバックアップ担当者もアクセスできるようにします。
あわせて、障害対応の手順書(マニュアル)を作り、クラウド上で共有します。NotionやGoogleドキュメントで十分です。担当者が休んでも、最低限の復旧作業はできるようになります。
2. バックアップ担当者を指名し、権限を渡す
情シス担当者のほかに、少なくとも1名を「バックアップ担当者」に指名します。この人には、システムの監視や簡単なトラブルシューティングができる権限を与えます。
具体的には、サーバー管理画面へのアクセス権やSaaSの管理者権限を共有します。最初の教育は数時間で構いません。この小さな投資が、事業継続の保険になります。
3. クラウドの自動化を使い、監視は外部に任せる
すべてを内製する必要はありません。サーバー監視やバックアップの運用を外部のマネージドサービスに委託すれば、属人化を防げます。
たとえばAWSやGoogle Cloudのマネージドサービスを使えば、障害が起きたときに自動で通知が届く仕組みを作れます。月額数千円から導入できるサービスも多く、人件費と比べればきわめて低コストです。
経営者が今すぐ下すべき判断
「自分が休むとシステムが止まる」という現実は、経営者の責任の問題です。放置すれば、会社の存続を一人の体調に預けることになります。
まずは来週中に情シス担当者と面談し、次の3点を確かめてください。
- すべてのシステムのパスワードは共有されているか
- 障害対応の手順書はあるか
- バックアップ担当者は決まっているか
ひとつでも「NO」があれば、それは経営判断の空白が生んだ結果です。ITを「専門家任せ」から「経営の意思決定装置」へ引き上げる最初の一歩として、今日から動き始めてください。
IT投資はコストではなく、事業を続けるための必要経費です。ひとり情シスを孤独な戦士のままにしないこと。それが、持続可能な経営の第一歩です。