「技術と経営をつなぐ」支援の落とし穴と、真に必要な視点
2026-04-06
「技術と経営をつなぐIT戦略・DX支援パートナー」を標榜するサービスが、市場に増えています。先日も、リ・ジューム合同会社が「技術と経営をつなぐ」支援を掲げているという記事が報じられました。一見すると、我々が求めるべき理想の支援像そのものです。しかし私は、ここにこそ日本企業がITと向き合うときの根本的な「思考停止」と「責任放棄」の構造が表れていると危惧しています。
「つなぐ」という言葉は、「技術と経営は分断されている」ことを前提にしています。そして、その分断を埋めるのは「外部のパートナー」だという構図です。経営者が自らの責任でITを定義し、統合する。その最も重要な課題を、外へ出してしまおうとする発想ではないでしょうか。
「つなぐ」支援が生まれる土壌:経営のIT放棄
なぜ「技術と経営をつなぐ」というニーズが、これほど表に出てくるのか。背景には、当メディアの編集方針でも繰り返し指摘している「経営のIT放棄」という構造的な問題があります。
多くの経営者は、ITを「専門的で難解な技術領域」と捉え、目的の定義や設計を技術者や外部ベンダーに委ねてきました。これは「委任」ではなく「放棄」です。委任であれば、目的と評価基準は経営がはっきり決めます。放棄では、目的関数が曖昧なまま外へ投げられ、「部門ごとのIT」「属人化したIT」「統合不能なIT」がはびこります。
放棄によって生まれた巨大な溝を、今度は「つなぐ」という名目のサービスで埋めようとする。根本原因である「経営のIT定義不在」にはメスを入れず、対症療法を繰り返しているにすぎません。支援パートナーは確かに有用な知見をくれます。しかし彼らが定義できるのは「手段」であって、その企業に固有の「目的」ではありません。目的を考えないまま支援を入れても、新しい依存関係が一つ増えるだけです。
三つのIT分類から見る「つなぎ」の限界
当メディアでは、企業内のITを「事業IT」「経営IT」「管理IT」の三つに分けて考えます。この視点で「つなぐ支援」を眺めると、その限界がはっきり見えてきます。
事業ITと経営ITの断絶は「つなげない」
「事業IT」(売上・成長に直結するIT)は速度が命です。現場のニーズに即応し、SaaSをすぐに導入する文化が支配しています。一方の「経営IT」(意思決定と再現性のためのIT)は、統合と一貫性が命です。全社のデータをまとめ上げ、経営判断の質を高めることを目指します。
両者は、目的関数が根本から違います。速度最優先の事業ITと統合最優先の経営ITを、外部パートナーが「つなぐ」のは原理的に困難です。どちらの目的を優先するかという「経営判断」が欠かせないからです。その判断をせずにパートナーへ「つないでください」と頼むのは、経営責任の放棄でしかありません。
管理ITの「安定性」信仰がすべてを阻む
見逃せないのが「管理IT」(安定運用・コスト管理のIT)の存在です。多くの企業で、情シス部門は「安定性」と「コスト削減」だけで評価されています。そのため新しい「つなぎ」の試みも、「リスクが高い」「コストが不明確」として止められがちです。外部パートナーが技術と経営をつなごうとしても、社内のこの「管理IT」の壁に阻まれてしまうのです。
「つなぐ」から「統合設計する」へ
では、経営者・CTO・情シスは何を考え、どう動けばよいのか。鍵になるのは、「つなぐ」から「統合設計する」への転換です。
第一歩:自社のIT目的関数を定義する
経営陣がまず議論すべきは、「我が社にとって、ITの目的は何か」という根源的な問いです。たとえば「今後3年で、ITを通じて実現したい経営上の成果は何か」を言葉にします。答えは売上拡大、意思決定の速度向上、業務プロセスの再現性確保など、いくつもありえます。大事なのは、それらに優先順位をつけることです。速度と統合は、多くの場合トレードオフの関係にあるからです。
目的関数が決まって初めて、「どのITにいくら投資するか」「事業ITと経営ITのバランスをどう取るか」を判断できるようになります。外部パートナーに求めるのは、その目的関数を実現するための「手段の提案と実行支援」です。
実践例:SaaS統合ダッシュボードのケース
ある小売業のクライアントでは、店舗ごとにバラバラに導入されたSaaS(売上管理、在庫管理、シフト管理)が、経営判断に活かされていませんでした。そこで彼らは、次の手順を踏みました。
- 経営目的の定義:「リアルタイムに全店舗の収益性を把握し、翌月の販促策に反映する」ことを最優先目的と設定。
- 技術的制約の明確化:既存SaaSのAPI連携可否、データ形式を情シスと共に洗い出し。
- ツール選定:目的達成のため、データ統合プラットフォーム(当時はMicrosoft Power BIと各SaaSのコネクタを活用)を導入。高価なカスタム開発は見送り。
外部コンサルタントには「Power BIを用いた具体的なデータパイプライン構築」を依頼しました。ただし、「何のためにつなぐのか」という目的の定義は、経営陣が自ら行っています。その結果、投資対効果がはっきりした、継続的に使われる仕組みができあがりました。
支援パートナーとの「正しい」付き合い方
「技術と経営をつなぐ」パートナーが不要だというわけではありません。使い方さえ誤らなければ、強力な推進力になります。押さえるべきポイントは3点です。
1. 目的定義は絶対に外注しない
パートナーに最初に求めるのは、「我が社のビジネスを理解したうえで、ITの目的を一緒に考えてくれる」ことではありません。「我が社が定義した目的を、技術的にどう実現し、どう計測するか」の具体案です。目的設定ワークショップを売りにするサービスも多いのですが、ファシリテーションは借りても、答えは経営陣の腹から出す覚悟が要ります。
2. 「つなぎ」のコア技術を見極める
多くの支援サービスは、特定のクラウドプラットフォームや統合ツールといった、決まった技術スタックを土台にしています。自社の既存環境、とりわけデータの発生源であるSaaS群と、そのパートナーの得意技術がかみ合うかを確かめましょう。パートナーの都合で新しいツールが乱立しては本末転倒です。
3. 出口戦略(内製化の道筋)を最初に合意する
依存関係を生まないためには、支援のゴールを「知識と資産の移転」に置くことです。たとえば、最初のデータパイプライン構築はパートナーが担い、2つ目のダッシュボードからは自社の情シスが主体となって、パートナーはレビューだけに関わる。そんなロードマップを最初に描いておきます。そうすれば支援は「永続的なつなぎ役」ではなく、「自立のための一時的な触媒」になります。
まとめ:経営者の役割は「つなぐ」ことではなく「統合を命じる」こと
「技術と経営をつなぐ」という言葉の響きは、確かに心地よいものです。しかし、それが経営者の手を離れたところで行われるなら、生まれるのは新たな技術的属人化か、外部への依存だけです。
本当に必要なのは、経営者が「技術と経営は、そもそも分断されてはならない一体のものだ」と宣言し、統合設計の責任を自ら引き受けることです。そのうえで、足りない技術的な実行力やノウハウを、明確な目的定義と出口戦略を携えてパートナーに求める。この順序を間違えてはなりません。
DXとは、つまるところデジタル技術を使った「経営の再設計」です。その設計図に筆を入れるのは、外部の誰かではなく、経営者自身なのです。