意思決定と組織 / 組織と経営者
AIエージェントを何体も置く会社の組織図――社長が決める三つのこと
2026-10-22
AIエージェントを役割ごとに何体も置く会社が増えてきました。これまでは、人が何かを頼んでAIが答えを返し、会話が終われば仕事も終わりでした。いまは、エージェントが常に動いていて、決まった持ち場の仕事を自分で拾い、終わったら報告を残す、という形が広がっています。AIは一台の便利な道具から、持ち場を持つ担当者の集まりに変わりつつあります。
担当者が増えれば、会社には組織図が要ります。この記事では、任せる相手が何体にもなったとき、会社の側をどう作り直すか、そして社長が何を決めるべきかを、私自身の判断の基準として整理します。10月20日の回では「会社の速さは人の判断の往復で決まる」、10月21日の回では「戻せる運用と並行稼働でリスクを取る」という話をしました。今回はその先の話です。
海外の二つの例
一つ目は Paperclip です。AIエージェントのチームで事業を回すためのオープンソースの仕組みで、公開されている説明では、会社の目標の下に役割ごとのエージェントを並べ、役割や報告の線、権限を持たせて組織図として見られるようにしています。エージェントごとに月の予算を決められ、上限の80%に近づくと注意が出て、100%に達するとそのエージェントは自動で止まります。全体の状況は一つの画面で確認できます。
二つ目は ECC です。紹介しているショート動画の説明によると、一人の開発者が作った仕組みで、64のエージェントと261のスキルを使い、設計の計画、コードを書くこと、セキュリティの検査、テストの網羅を自動で回しています。数字は動画の説明にある範囲の話ですが、大事なのは数の多さではなく、開発という仕事を持ち場に分けて、それぞれに担当を置いている組み方のほうです。
もったいないのは、人間主体の業務設計にAIを足すこと
私が一番もったいないと感じるのは、人間を主体にして業務設計を組み、その途中にAIを差し込むやり方です。今の手順、今の承認の流れ、今の画面はそのままにして、人が作業していた一部分だけをAIに置き換える。自然な進め方に見えますが、それだとAIは、人のために作られた流れの中で、人の都合に合わせて待たされ続けます。
たとえば、AIが見積もりの下書きを数秒で作れるのに、その下書きを人が別の画面に打ち直し、紙の承認を回してから送る流れを思い浮かべてください。AIの部分だけが速くなっても、全体の時間はほとんど変わりません。しかもAIは打ち直された後の結果を知らないので、次の仕事に生かせません。常駐のAIエージェントを主体にして、組織とシステムを作り直す。私はそうすべきだと考えています。
既存のシステムのままでは、意味がない
既存のシステムを維持したままAIエージェントを導入しても、あまり意味がないと考えています。既存のシステムは、人が画面を見て、人がクリックして、人が覚えておく前提で作られているからです。情報があちこちに散らばっていてどれが最新か分からない、誰が何をしてよいかという権限が曖昧、やったことの記録が残らず次に前回の続きができない。人なら周りに聞いて何とかしますが、エージェントは環境に書かれていないことは分かりません。
私の会社では、社内のシステムを、AIエージェントのためのシステムとして内製で作り直しました。既存の仕組みにエージェントを足すのではなく、エージェントが読みやすく、書きやすく、動きやすい形に、土台のほうを入れ替えたのです。その結果、かなり多くのことを、エージェントが主体的に動いて進めてくれるようになり、会社としても非常に好調です。
社長が決めるのは三つ
担当が何体にもなった時点で、社長が一つひとつの判断に入るのは無理です。社長が全部を見ようとすれば、社長が会社で一番の待ち時間になってしまいます。だから社長は、個々の判断ではなく、判断が行われる枠を決めます。
一つ目は担当表です。どのエージェントが何を受け持つかを一枚に書き出し、持ち場、任せる範囲、やってはいけないこと、困ったときの報告先を書きます。持ち場が重なれば同じ仕事が二回行われ、誰の持ち場でもない仕事は放置されます。最初は大きな持ち場を三つくらいに分け、記録を見ながら直していきます。
二つ目は予算です。会社全体の上限とエージェントごとの上限、そして超えたときに何が起きるかを先に決めます。最初は控えめな上限で始め、記録と成果を見ながら上げていく。予算は、エージェントへの信頼の量だと考えると分かりやすいと思います。
三つ目は、報告先と記録の置き場所です。私はここが一番大事だと考えています。エージェントが何をして、何を判断し、何が残ったのかを、決まった場所に決まった形で残させ、誰がいつ見るかを決めておく。記録は人のためだけでなく、エージェントにとっての記憶と引き継ぎ書にもなります。私自身、会社ごと・案件ごとにエージェントを置き、作業記録を社内の共有のナレッジに残すようにしています。そうしておくと、全部の作業を見なくても、記録を読めば何が進んで何が止まっているかが分かります。
今はリスクテイクの時期
判断の基準を一言で言えば、今はリスクテイクの時期だと覚悟を決めることです。土台を作り直すのは手間がかかりますし、うまくいかない部分も出ます。それでも今は、淘汰されるか、淘汰する側に回るかを決める時期だと思っています。様子を見ている間にも、作り直した会社は記録を積み上げて速くなっていきます。
従業員の働きやすさの次は、AIエージェントの働きやすさ
これまで会社は、従業員にとっての働きやすさを議論してきました。それ自体はこれからも大事です。そのうえで、これからはAIエージェントにとっての働きやすさを追求すべきだと考えています。仕事の受け取り場所がはっきりしていること、使ってよい道具と権限が決まっていること、必要な情報が一か所にそろっていること、やったことを残す場所があって前の続きから始められること。人にとって働きやすい職場を作ってきたのと同じ熱量で、エージェントにとって働きやすい会社を作る番です。
今週できること
自社でAIに任せたい仕事を、役割ごとに三つ書き出してみてください。それぞれについて、持ち場、月の上限、記録の置き場所を一行ずつ埋めます。埋まらない欄があれば、そこがエージェントにとっての働きにくさです。そのうえで、まず一つの役割だけをエージェントの担当にして、一週間、記録を見てみてください。担当表の重なりや抜け、予算の感覚が見えてきます。