意思決定と組織 / 組織と経営者
セキュリティ運用は常駐AIエージェントへ――任せる前に決める権限・監視・記録・止め方
2026-10-23
脆弱性の報告が増え、修正が出た直後から攻める側も自動で動く時代になりました。この記事では、会社のセキュリティ運用を誰が回すのかを、私自身の判断の基準として整理します。10月20日の回では「会社の速さは人の判断の往復で決まる」、21日の回では「戻せる運用と並行稼働でリスクを取る」、22日の回では「常駐のAIエージェントを主体に組織とシステムを作り直す」という話をしました。今回は、それを守りに当てはめる話です。
最初に断っておくと、これは現場の人を責める話ではありません。現場が怠けているから追いつかないのではなく、攻撃の速さと量が、人が交代で見張れる範囲を超えてしまった、という話です。どの体制で守るかを選ぶのは社長の仕事です。
結論は二択
会社のセキュリティ運用は、もう人の手で回す前提では追いつきません。自社で守るなら、常駐のAIエージェントが主に対応する運用を組む。それができないなら、巨大なプラットフォームに乗る。私はこの二択だと考えています。そして、会社全体でどちらか一つを選ぶのではなく、システムごとに選びます。たとえばメールや表計算は巨大なプラットフォームに乗り、自社の業務に深く結びついた仕組みは自社で持って常駐エージェントに守らせる、という分け方です。一番危ないのは、自社の仕組みを抱えたまま、守りは人の手で回し続けることです。
なお、巨大なプラットフォームに乗っても、守りのすべてを任せられるわけではありません。誰にどの権限を渡すか、どのアカウントを使い続けるかは、使う側が決めることです。2段階認証を設定していない人がいれば、どれだけ大きな土台でも入口が開いたままになります。ここも常駐のエージェントに常に確かめさせると楽になります。
いま起きていること
X上で共有されていた話題によると、アメリカのNVDという脆弱性のデータベースでは、月ごとの報告件数が1年で4,389件から15,074件に増えたそうです。およそ3.4倍です。数字は共有された範囲のものですが、見つかる穴の数そのものが、人が一件ずつ読んで判断できる量を超え始めていると私は受け止めています。
広く使われているPHPでは重大な脆弱性が2件見つかり、PHPの財団が事前に告知したうえで修正版を出しました。報じられているところでは、見つけたのはAIのモデルだったそうです。AIが見つけて、人が直す。ここまでは良い話です。ところがその後、修正が公開されてから、まだ修正を当てていないサーバーをAIエージェントが自動で攻撃していた、という投稿も出ていました。修正の中身を見れば、どこが弱かったかが分かってしまう。修正が出た瞬間から、攻める側の時計は動き出します。人が会議を開いて週明けに対応しようと言っている間に、相手は自動で探しに来るのです。
守る側では、保守の担当者が見つからないからAIによる自律的な防御を入れている、という現場の声もありました。人を雇って守るという前提そのものが崩れ始めています。
よくある誤解:中身を理解しないまま対応する
脆弱性の対応で一番多い誤解は、中身を理解しないまま動くことです。本来は、そもそもの脆弱性の内容を毎回理解して、影響しそうな箇所に対して施策を打つべきです。ところが実際には、ずれたことをやっているケースが非常に多い。ニュースになったから全部止める、関係のない設定を変える、逆に本当に影響のある場所が手つかず。中身を読まずに動くと、手間だけかかって守りは強くなりません。
ずれる理由は、人に毎回読み込む余裕がないからです。常駐のエージェントなら、脆弱性の説明を読み、自社のどのシステムのどの版が当てはまるかを照らし合わせ、影響のある場所だけを挙げられます。
自社でうまくいったこと、失敗したこと
私の会社では、端末・ライセンス・セキュリティの管理をまとめた業務の統合システムを大至急アップデートしました。そのうえで常駐のエージェントに任せた結果、ライセンスの管理、パソコンのバージョンの管理、アカウントの2段階認証の状況や使われているかどうかの調査が、すぐにできるようになりました。必要ならアカウントの停止もすぐにできます。人が年に一度行う棚卸しが、エージェントには毎日の当たり前の仕事になります。何より、常駐のエージェントが常に見てくれているという安心感が、一番大きな変化でした。
一方で、一番の失敗は、人の手でやろうと思ったことそのものです。AI前提の社会では、サイバー攻撃も常に起きるものだという意識が足りませんでした。相手もAIを使って休まず動いている以上、守りも常に動いていなければなりません。
任せる前に決める四つの土台
海外ではいま、AIの制御プレーンという考え方が話題になっています。Palo Alto Networksは、AIのアクセスや使い方、扱うデータ、費用を見えるようにするだけでなく、その場で制御する仕組みが要ると説明しています。Oktaも、AIエージェントについてセキュリティの責任者が答えるべき問いを出しています。私はこれを、常駐エージェントを安全に動かすための足場だと捉え、四つに分けて考えています。
一つ目は権限です。エージェントに何をしてよくて、何をしてはいけないかを決めます。NVIDIAのOpenShellは、エージェントの権限を既定では拒否し、動きを監視して隔離する仕組みとして紹介されていました。調べる権限と止める権限は分け、必要な権限だけを必要な範囲で渡します。
二つ目は監視です。エージェントが会社のシステムを24時間見張ることと、エージェント自身の動きを見張ることの両方を指します。強い権限を持つ人ほど操作の記録や二重の確認が付くのと同じ考え方です。
三つ目は記録です。どの脆弱性について、どのシステムのどの版が当てはまると判断し、どんな手を打ったのかを決まった場所に残します。記録があれば、対応が中身に合っていたかを後から確かめられ、ずれていれば次から直せます。
四つ目は止め方です。エージェントが間違ったとき、誰がどうやって止め、止めたあと何が元に戻るのかを決めておきます。止められる、戻せると分かっているから、強い権限も任せられます。ここだけは任せる前に必ず決めてください。
私の判断の基準:基本は常駐エージェントに任せる
私の基準ははっきりしていて、基本的に常駐のAIエージェントに任せます。私の会社ではシステムの統合や新しいシステムの制作も常に行っているので、守りだけ別の人の手で回すより、まずは常駐のエージェントをメインで考えておくほうが楽なのです。人は、システムごとに自社で持つか大きな土台に乗るかを決め、四つの土台を決め、記録を見て線引きを直す。人の役割は消えるのではなく、守りの現場から、守りの設計へと移ります。小さな会社ほど守りの専任者を置けないので、この形の効き目は大きいと考えています。
大変さはポジショントークに変わる
少し強い言い方になりますが、サイバー攻撃対策が大変だというのは、これから人間側のポジショントークに変わっていくと思っています。人の手で回す前提に立てば守りは確かに大変ですが、常駐のエージェントが24時間見張り、中身を読んで影響のある場所に手を打つ形にすれば、大変さの多くは消えていきます。AIというよりSI、超知能という呼び方が意味するところ、つまり少なくとも守りのこの領域では人間を上回っているという点を認めて活用する方が良い。私はそう考えています。
今週できること
自社のシステムを書き出し、一つずつ「自社で常駐AIに任せる」か「巨大なプラットフォームに乗る」かを1行で書き分けてみてください。迷うものがあれば、それも書いておきます。そのうえで、自社で持つと決めたものの中から一つだけ選び、脆弱性の検知と報告だけを常駐エージェントに任せてみてください。最初は直させず、見つけて知らせるところまで。そのときに、権限・監視・記録・止め方を1行ずつ決めておきます。一週間記録を見れば、どこまで任せられるかが見えてきます。