ガバナンス設計 / 内部統制とリスク
発生確率×影響度で考えるという当たり前
2025-10-02
リスクの判断を「危なそうかどうか」という感覚で行っている。専門家の「リスクがあります」の一言で、議論が止まってしまう。すべてのリスクを同じ重さで扱い、なぜそのリスクを恐れているのかを誰も言葉にできていない。
こうした組織では、小さな確率の巨大なリスクと、高い確率の軽微なリスクが同じ列に並べられます。その結果、判断は必ず過剰に保守的になります。
リスクとは「発生確率 × 影響度」で評価すべきものです。「危険そう」という直感ではなく、「どれくらいの頻度で起きるのか」と「起きたら何がどこまで影響するのか」を分けて考える。それなしに、まともな経営判断は成り立ちません。この見方を取り入れるだけで、リスク管理は感情論から構造的な分析へと変わります。
「リスクあり」の一括りが判断を誤らせる
発生確率1%だが影響が致命的なリスクと、発生確率50%だが影響は軽微なリスク。この二つを同じ「リスクあり」で一括りにすれば、判断は必ず誤ります。両者はまったく性質が違うからです。
もちろん、現実には正確な数値が取れないことも多いでしょう。それでも「AはBより確率が高い」「Xの影響はYより大きい」といった相対的な評価はできます。本当に危ういのは、数値が無いことではなく、評価の軸そのものを持たないことです。それこそが最大のリスク、つまり判断リスクになります。
リスクの評価には三つのやり方がある
A:リスクを一括りで扱う
「リスクがある」と指摘された時点で議論が終わり、判断が止まります。
B:影響度だけで判断する
大事故(影響度大)だけを過度に恐れ、日常的に起きている軽微な損失(影響度小)を見逃します。
C:発生確率と影響度を分けて評価する
リスクを「確率」と「影響」の2軸に分解し、比べられる状態にします。そうすれば、対策の優先順位を筋道立てて決められます。
Cは確率と影響度の両方を評価するぶん、ほかのやり方より考える手間がかかります。しかしその代わりに、判断の精度と合理性は大きく高まります。効果的なガバナンスと意思決定の土台をつくるための投資だと考えるべきです。
分けて評価すべき場面、そこまで要らない場面
確率と影響度を分けて評価するやり方が特に力を発揮するのは、次のような場面です。
- 複数のリスクを比較したいとき
- 対策リソースに限りがあり、優先順位をつけたいとき
- 「どのような条件下なら実行するか」という条件付き判断をしたいとき
一方、次のような場面では、ほかのやり方でも構いません。
- 直感や経験則で素早く決めたいとき
- 判断の理由を詳細に説明する必要がないとき
また、一度評価したら終わりではありません。次のようなときは評価をやり直します。
- リスクの発生確率や影響範囲に関する前提が変化したとき
- 事業のフェーズや戦略が大きく変わったとき
確率×影響度でつまずく三つのパターン
一つめは確率の無視です。「起きたら大変」という影響度だけを見て、どれくらい起きるのかをまったく考えません。
二つめは影響の過大評価です。最悪のケース(ワーストシナリオ)ばかりを想定し、現実的な影響を見積もれなくなります。
三つめは数値信仰です。精密な数値データを求めすぎて分析が長引き、肝心の判断が遅れてしまいます。
まとめ:一つの見方が、ガバナンスを「判断加速装置」に変える
リスクを「確率」と「影響」に分けて説明できれば、限られたリソースを優先度の高い対策から振り向けられます。専門家にも「そのリスクの発生確率の根拠は?」「影響はどこまで及ぶのか?」と具体的に問えるようになる。リスクを理由にした思考停止から抜け出し、判断を確実に前へ進められるようになります。
効果的なリスク評価は、難しい技術ではありません。発生確率と影響度を分けて考える。この一つの見方を取り入れるだけで、組織のガバナンスは「思考停止装置」から「判断加速装置」へ変わりえます。不確実な環境で持続的に意思決定を続けるための、法務や会計と並ぶ大切な経営基盤(組織構造)の一つです。