ガバナンス設計 / 総論
選択肢A・B・Cを必ず出せというルール
2025-10-28
会議に出てくるのは、事実上一つの案だけ。「他に案は?」と聞いても沈黙が返ってくる。反対意見が出れば結論が出なくなり、なぜ意思決定が前に進まないのか、誰も構造として説明できない。
施策の説明も「この案は良い」「これは危険だ」という片面だけの評価になりがちです。メリットを強調する提案と、デメリットだけを突く反対意見がぶつかり合い、会議は賛成・反対の感情論に変わっていきます。
この二つは、どちらも意思決定の設計ミスです。選択肢が足りず、情報が偏っているから、議論が是非論や感情論に落ち込み、組織の判断が止まる。解決策は二つのルールです。選択肢A・B・Cを必ず並べること。そして、メリットとデメリットを同時に示すこと。これは個人の能力に頼る話ではなく、組織の思考を前に進めるためのガバナンスのルールです。
二つの設計ミスと、二つのルール
一つめの問いは、「単一案の提示」を許し続けるのか、それとも「最低3案を並べる」というガバナンス(統治)のルールを入れるのかです。3案が並ぶと、唯一の正解を探すことはできなくなります。比べるしかなくなるので、判断が前に進みます。
二つめの問いは、メリットかデメリットのどちらか一方だけを語る構造を続けるのか、両面を同時に示す形に切り替えるのかです。片面だけの評価は、リスクを隠すか、価値を無視するかのどちらかに偏り、健全な判断を妨げます。
なぜ「3案」なのか
1案では是非論になります。2案では単純な賛否の対立になります。3案あって初めて、本当の比較が成り立ちます。「3」という数は、思考を白黒(二値)からグレー(多値)へ引き上げるための最小単位です。
3案すべてが完璧である必要はありません。無理にひねり出した案でも構わない。大事なのは、選択肢が並ぶこと、それ自体です。
片面評価は、立場の違いから生まれる
提案する側は賛成を得たいので、メリットを強調します。反対する側は失敗を避けたいので、デメリットを指摘します。両者の評価軸は、最初から噛み合っていないのです。これが構造的な問題の根っこにあります。
どの選択肢にも、メリットとデメリットは必ずあります。完璧な案は存在しません。両面を示さなければ、比較もできず、まともな意思決定もできません。
会議の進め方は三つに分かれる
A:従来どおり単一案で進める / メリットだけを強調する
準備は楽で、前向きにも見えます。しかし議論が止まりやすく、リスクが見えない盲点が生まれます。
B:二案提示にとどめる / デメリットだけを指摘する
比べられそうで、慎重にも見えます。しかし実際には賛否の対立を生みやすく、提案の価値や機会が議論されないまま、チャンスを逃しかねません。
C:必ず三案を並べる / メリットとデメリットを同時に提示する
比較が前提になるので判断が前に進みやすく、感情論ではなく事実にもとづいて議論できます。意思決定の質が上がり、組織のリスク管理能力も高まります。
Cにすれば、準備や情報収集の手間は確かに増えます。それでも、組織の意思決定能力そのものを取り戻し、判断の質を安定させ、リスク管理能力を高められる。ここに、組織ガバナンスにとっての核心的な価値があります。
このルールが必要な組織、合わない組織
議論を是非論や感情論から抜け出させたい。不確実な判断を前に進めたい。組織の思考停止を防ぎ、比較を前提にした建設的な議論をしたい。そう考えるなら、このルールは導入する価値があります。
反対に、準備の手間をかけたくない、あるいは判断の責任をあえて曖昧にしておきたい組織には向きません。
会議が長いのに決まらない。反対意見が出ると議論が止まる。会議が賛否で分断される。こうした兆しが見えたら、会議の設計を見直すタイミングです。
ルールを入れても失敗する三つのパターン
一つめは形だけの三案と、ポジティブプレゼン病です。実質的に同じ案を言い換えて並べただけだったり、都合の良いメリットばかりを並べてリスクに触れなかったりします。
二つめは優劣ありきの比較と、ネガティブブレーキ病です。最初から一案へ誘導するために明らかに劣る案を並べたり、リスクの指摘だけで議論を止め、価値を生み出す議論を封じてしまったりします。
三つめは創造性の誤解と、両面の回避です。「良い案がないから出せない」と、質を理由に選択肢を増やすこと自体をあきらめる。あるいは対立や操作を避けるために、あえて片面しか語らない。どちらも戦略的な回避です。
まとめ:正解を探すのをやめ、選択肢を並べる
比較を前提に議論を設計できれば、反対意見は単なる拒否ではなく、判断の材料に変わります。会議は「決める場」になります。両面の提示を前提にすれば、議論は感情論から構造の話に戻り、組織全体の思考の速さと、意思決定の耐性(レジリエンス)が高まっていきます。
意思決定を前に進め、リスク管理を徹底したいなら、正解を探すのをやめ、選択肢を並べることに集中してください。A・B・Cが並び、それぞれのメリットとデメリットが見えた瞬間、経営判断はようやく動き始めます。経営判断とは、メリットとデメリットのどちらかを選ぶことではありません。両方を理解したうえで、どの価値を求め、どのリスクを引き受けるかを決めることです。この前提を欠いた判断は、常に重大な危険をはらんでいます。