ガバナンス設計 / 法務・会計・税務
なぜ専門家は100側に寄りがちなのか
2025-10-09
法務・会計・税務などの専門家の意見が、いつも慎重で否定的に聞こえる。「専門家がそう言うなら仕方ない」と、判断をそのまま引き取ってしまう。その理由を専門家の性格や保身だと考え、彼らと対立することには気後れしている。そんな経験はないでしょうか。
専門家の意見が「100」、つまり最大のリスク評価で「やめる・NG」の側に寄るのは、単に慎重すぎるからではありません。職業の構造上、そう判断するように最適化されているからです。だから、専門家の意見をそのまま経営の結論にしてはいけません。経営者が「1〜99」の範囲の中でリスクを評価し直し、位置づけ直す必要があります。
専門家の使い方を誤ると、経営判断が専門判断に置き換わる
専門家の意見が常に「100」側に寄るという構造を知らないまま使うと、判断の基準が自動的に「100」側に固定されます。比較検討の余地は消え、経営判断そのものが専門判断にすり替わってしまいます。これは専門家の問題ではなく、使い方の問題です。
専門家が「100」側に寄るのは、職業倫理として正しいから
法務には、違法リスクが1%でもあれば指摘する責務があります。会計には、処理できない事態や監査での指摘を避ける責務があります。税務には、否認や追徴のリスクを小さく見積もってはならない責務があります。どれも、職業倫理として正しい行動です。
ただし、専門家の評価軸には、事業機会を最大にするという観点は含まれていません。そして最終的な責任を負うのは、専門家ではなく経営者です。つまり専門家には、「やる価値があるか」そのものを判断することはできないのです。
専門家の意見をどう扱うか、三つの道
A:専門家の意見をそのまま結論にする
判断が楽になり、責任も負わずに済みます。
B:専門家の意見を無視する
一時的には意思決定が速くなります。しかし、重大な事故やリスクを招きかねません。
C:専門家の意見を100側の入力として扱う
専門家の意見を「最大リスク」という大切な情報として受け取り、そのうえで最終的な判断は経営者が下します。
Aは目先は楽ですが、経営判断が形だけのものになるため、長い目で見れば最も危険な選択です。
Cを選ぶ覚悟と、見直すべきサイン
適切なガバナンスとリスク管理のためには、Cを選ぶべきです。その前提になるのは、専門家を正しく使いたい、判断の責任を自分で引き取りたい、リスクを許容できる水準で管理したい、という意思です。
逆に、判断の重さを専門家に預けたい、経営判断そのものをしたくない、という場合には成り立ちません。
専門家のコメントがいつもNGで終わるとき、比べられる選択肢が一つも出てこないとき。それは、専門家との関係を見直すべきサインです。
専門家との関係でつまずく三つのパターン
一つめは専門家の最終判断者化です。専門家の意見が、そのまま経営の最終結論になってしまいます。
二つめは職業バイアスの誤解です。専門家の判断の傾向を、その人の慎重な性格の問題だと取り違えてしまいます。
三つめは経営の免責構造です。「専門家が止めた」という説明だけで判断が終わり、経営者としての説明責任が果たされません。
まとめ:専門知見を恐れず、盲従もしない
専門家の判断の傾向を職業の構造として理解できれば、専門家には「最大リスクを示す人」という適切な役割を与えられます。そのうえで、「1〜99」の範囲の中でリスクを置き直し、判断の主語を自分自身に取り戻すことができます。
専門家の意見が「100」側に寄るのは誤りではなく、その役割に沿った当然の結果です。本当の問題は、その意見を「誰が」「どこで」「どう」最終的な経営判断に変えるのかという、組織の意思決定プロセスとガバナンスの構造にあります。効果的なリスク管理とは、専門知見を恐れることも盲従することもなく、経営者の責任において統合することです。